2022年01月07日

「おおあんごう」

加賀翔さんの初めての小説、は、「この環境で生を受けたことの呪いと祝福」を、描いていると思う。
それは、言葉に似ているのじゃないか。
言葉は、「存在していたけれど名付けられなかった何か」に名を与え、祝福すると同時に、その何かの「意味以外の可能性」を禁じる、呪いのような側面もある。
大地は、「あの父の息子」として産まれたことで、「幼くして正しい大人にならなければならなかった」呪いにかけられている。
でも、「あの父の息子」として産まれたことで、こんなにも繊細で、優しく、美しい人間になった。それはまぎれもない祝福だ。(それはもちろん、母や祖母、友人の力も大きい)
呪いと祝福、相反するように見えるものはあらゆる場所で共存していて、例えば私には、この小説そのものが泣き笑いをしているように思える。

「ぼくにはこの父親しかいない、それを笑ってくれたことが嬉しかった。父のことは嫌いだけど、嫌いだとしても受け入れて笑うことができればいいんだと教えてもらえた気がする。」