2022年01月25日

優しい暴力の時代

チョン・イヒョンの「優しい暴力の時代」は、静かだ。
どの短編も、静かに、こちらに語りかける。
それは、過去のカプセルの中に閉じ込めた人生の欠片を、語り手が思い出しているからだろう。
思い出す行為は、いつだって静かだから。
手を伸ばしても、もう届かない過去のあちこちに喪失があり、痛みがあり、それは優しい暴力となって語り手を襲う。
それでも私たちは、思い出すことをやめられない。
痛みを伴う行為としての「思い出す」ことは、同時に、私たちを前に進ませることでもある。

私はときどき考えてみたものだ、年収の半分近い学費を払って私を東京のインターナショナルスクールに入れたとき、両親は娘がどんなふうに生きることを望んだのだろうと。韓国人でも日本人でもない、いわばコスモポリタンみたいな人になってほしいと強く願ったのかもしれない。それはともかく、私がそこで最初に覚えた言葉は「ブタ」だった。豚という意味のの日本語。どこの国でもインターナショナルスクールの子どもたちは、悪口は現地語で言う。私がいちばんいっぱい聞いた言葉も「ブタ」だった。